IS-ISをインターネット環境に対応させたIntegrated IS-ISの概要について説明します。Integrated IS-ISはIS-ISの機能拡張であって基本動作はIS-ISそのものであるのでOSIで使用するIS-ISを理解していることが前提となります。
Integrated IS-ISはOSIネットワークで使用されるIS-ISをIPネットワークに対応させたプロトコルです。IS-ISはISO/IEC10589で規定されていますがIntegrated IS-ISはRFC1195で規定されています。対応するプロトコルとの関係は下図のようになり、IS-ISがOSI環境のみに対応するのに対してIntegrated IS-ISはOSI環境とInternetに対応します。ただしIntegrated IS-ISはベースがOSIプロトコルであるためInternetで動作する場合でもOSI環境が必要となります。
Integrated IS-ISがInternetに対応するイメージは下図のようになります。IS-ISはNSAPアドレスをベースにNSAPルート情報を扱うのに対して、Integrated IS-ISはNSAPアドレスをベースにNSAPルート情報もしくはIPルート情報を扱います。これはOSIのIS-ISとして動作しオプションを追加することでIPに対応します。このようにIS-IS上にIPのルート情報を乗せる構造になっているためIPだけを扱う場合でもNSAP環境が必要で、隣接やLSP交換などはOSIのIS-ISと同じ動作になります。
IS-ISからIntegrated IS-ISの変更点は下表にまとめたとおりです。変更の中心はIPアドレスやIPサブネットの扱いと、IPアドレスによるISの識別です。OSIネットワークはノードに対してアドレスを付与するのに対し、インターネットではリンクに対してアドレスを付与するためネットワークモデルが根本的に異なります。Integrated IS-ISではISはこれまで通りNSAPアドレスで隣接になり、IPサブネットの付与された回線をホストへの隣接として扱います。
ネットワークの構造 | OSIネットワークにIP環境を追加。ホストへのアドレッシングから回線へのアドレッシングに対応。OSIネットワークとインターネットのデュアル環境に対応 |
ルーティング | 変更なし |
アドレッシング | NSAPアドレスに加えてIPアドレスを追加 |
隣接関係 | 変更なし。ただし様々な拡張あり |
LSP作成 | NET、NSAPアドレスに加えてIPサブネットをホストとして追加。ISを識別するためのIDを追加 |
LSP交換 | 変更なし |
ルート決定 | アルゴリズムの変更なし。サブネットをホストとして計算 |
PDUフォーマット | 変更なし。インターネット環境向けにオプションフィールドを追加 |
Integrated IS-ISはISO(ISO/IEC JTC 1/SC 6)とIETFの合意(RFC3563)からコアメカニズムに影響を与える変更はできず、IPに関する変更(TLVの追加)のみを行えます。例えばIPv6やMPLS-TEに対する対応ではオプションのTLVを追加することで拡張しています。ただし特定のプロトコル拡張がインターネット固有かどうかを判断できない(もしくはISOでの拡張が必要)ようなケースでは、IETFとISOの合意に基づきケースバイケースで決定されます。Integrated IS-ISの拡張については「Integrated IS-ISの拡張」のページで説明しています。
Integrated IS-ISのドキュメントは下表のとおりです。上で説明したようにIS-ISにオプションを追加しただけのプロトコルであるため、基本部分はOSIのIS-ISと同じ文書となります。
ドキュメント | 内容 | 説明 |
ISO/IEC10589 | IS-IS | OSI環境におけるIS-ISの動作・仕様。ほとんどすべてが含まれたメインとなる文書 |
ISO9542 | ES-IS | OSI環境におけるES-ISの動作・仕様。IPとのデュアル環境では必要 |
GOSIP2.0 | 製品仕様基準 | イギリス、アメリカ国内で国が購入するOSI製品に課す基本仕様 |
RFC1142 | IS-IS | ISO/IEC10589を編集しRFCにしたもの。数値や解釈が明確にされている |
RFC1195 | Integrated IS-IS | IPに対応したIS-ISの拡張仕様 |
RFC4444 | IS-ISのMIB | IS-ISで使用する各パラメータの規定と値 |
Integrated IS-ISの主な拡張については「Integrated IS-ISの拡張」のページで説明していますが、それ以外でもIP以外の利用を含めるととても多くのRFCが発行されています。IS-ISに関するRFCを年代と用途ごとにプロットしたものをPDFにまとめています。