OSPFの位置づけと、エリアの概念について説明します。
インターネットは下図のようにAS(Autonomous System)同士が接続する形の大きなルーティングドメインで、各ASはインターネットのサブルーティングドメインとしてお互いに協調しながら自立して動作しています。インターネットで使用するルーティングプロトコルはインターネット内(AS間)で使用するEGP(Exterior Gateway Protocol)と、AS内で使用するIGP(Interior Gateway Protocol)に分かれていますが、OSPFはAS内で動作するIGPに分類されます。OSPFは単一のAS内でリンク情報を交換してAS内のネットワークのルート情報を管理します。
各AS内の関係を簡単に示すと下図のようになります。AS内ではEGPとIGPが動作していて一対一の関係でルート情報を交換します。この関係が崩れると正確なルート情報を制御できなくなるため、状況に応じてEGPを分割(BGPのコンフェデレーションなど)したり、IGPを複合体(再配送など)にすることによって常に一対一を保ちます。
AS内では下図のようにEGPとIGPで情報を交換します。aはEGPからIGPに対して渡すAS間の情報。bはIGPからEGPに対して渡すAS内で発生した情報です。aによってIGPは別のASに対するルート情報を知ることができ、bによってEGPは自分のASが持つルート情報を知ることができます。
しかしIGPとしてaとbの区別ができないプロトコル(RIPなど)が動作している場合は下図のようにaの情報をそのままbとして返してしまうことがあります。この時EGPが受け取るbの中には必要な情報と不要な情報が混ざってしまっている状態であるためフィルターをかけるなどの運用設定で不要な情報を排除する必要があります。
IGPにOSPFを使用する場合この問題を実装レベルで解決することができます。OSPFではaとbの情報の取り扱いが明確に区別されているため「bはEGPに渡すが、aは渡さない」のような動作を簡単に実装することができます。
OSPFではASを構成するためにサブドメインとなるエリアを使用します。OSPFがベースとするIPでは回線にIPサブネットを割り当てルーティング(サブネットベースのルーティング)を行います。回線に対するIPサブネットの設定では下図の上のように使用するIPアドレスは割り当てるIPサブネットの中から選択し回線に接続するインターフェースに対して設定することで行います。これによって下図の下のようにIPサブネットが回線と共にルータ間に存在することになります。
このようなIPサブネットからなるネットワークをエリアにまとめるためにはネットワークをどのように分けるかを考える必要があります。ネットワークを分ける方法としてはBGPやIS-ISのようにルータ単位で分ける方法と、回線やIPサブネット単位で分ける方法があります。OSPFでは後者の回線やIPサブネット単位で分ける方法を採用しています。つまり各ルータでは複数のIPサブネットを束ねることで一つのエリアを形成します。そのためルータが複数のエリアを持つ場合には下図のようにエリアの境界がルータ上にできることになります。
このようなエリアの分け方はエリアが重なることがないため、ルータ内でエリア(Area ID)が一致しているかどうかや階層構造(IS-ISのようなレベルを設けた工夫)を考えなくてもよくなります。これによってOSPFのネットワークは重複することのない平面的に広がるエリアの連続と考えることができます。ただし、エリアの連続は下図のように閉路を作ってしまう可能性があります。閉路は冗長性を持っていると考えることもできますが、OSPFはエリア間の関係がディスタンスベクター型であることから閉路を発生させない工夫が必要となります。
OSPFではエリアに閉路を作らせない方法としてトポロジーをスター型にする制限を設けています。OSPFではエリアを1つの特別なエリア(バックボーンエリア)とそれ以外のエリア(非バックボーンエリア)に分け、バックボーンエリアには制限を設けず、非バックボーンエリアにはバックボーンエリアとだけ接続する制限を設けます。これによって下図のようにバックボーンエリアを中心としたスター型のネットワークが出来上がります。
※ここでの「制限」はABRによるバックボーンエリアを横断させる機能が働かないという意味なので、非バックボーンエリア同士が機能的に接続できないわけではありません。
ネットワークのトポロジーがスター型になったことで原則的に情報の流れが下図のように固定されます。各エリアからはバックボーンエリアに対してのみ情報の流れだけが発生し、バックボーンエリアからは各エリアに対してのみの流れだけが発生します。また情報の再送信(あるエリアから受け取った情報を別のエリアに流す)は可能ですが、再送信が行えるのはバックボーンエリアから非バックボーンエリアへの方向のみに制限され、受け取った情報を同じエリアには返せない仕様になっています。
以上のようなスター型のトポロジーを基本とする仕様によって閉路ができる可能性を減らしているため、OSPFでネットワークを拡張する場合はエリアを追加することで行います。
OSPFではエリア内のネットワークをリンク情報として扱います。ここではネットワークをどのようにリンクとして表現するのか、ネットワークの抽象化ついて説明します。前提として回線にはどのような種類があるのかを知っている必要がありますが、詳しくは「OSPF インターフェース」のページを参照してください。
リンクステートプロトコルではルート計算を行うためにネットワークを必要なものに絞った情報の抽象化を行います。例えば下図左のネットワークを抽象化すると、下図の右のように2つのリンク情報に分類することができます。
・ノードに対するリンク(赤矢印)
ノードに対する接続情報。エッジ(ルータ同士をつなぐ回線)を辿って到達できるルータを意味する
・エッジに対するリンク(青矢印)
エッジに対する接続情報。接続する回線に付与したIPサブネットに対して到達できることを意味する
この2つのリンクを鉄道に例えて説明します。下図は現在地である駅Aから街1に行く方法を示しています。街1の最寄り駅は現在地である駅Aなので電車には乗らずにそのまま歩いて街1に行くことができます。この時の駅Aと街1の関係がエッジに対するリンクとなります。
次に街2に行く方法を考えてみます。現在地である駅Aは街2に接していないため徒歩での移動はできません。街2に一番近いのは駅Bであるため、駅Aから駅Bに電車に乗って移動をして、そこから徒歩で街2に行くことができます。この時の駅Aと駅Bとの関係がノードに対するリンクとなります。駅Bと街2との関係は上で説明したエッジに対するリンクです。
このように駅から別の駅に辿るための情報がノードに対するリンクで、駅から直接行くことができる場所を表すのがエッジに対するリンクです。各駅は到着する電車(つまりHelloパケット)で隣の駅の存在を知ることができますし、自分が属している街の情報は当然知ることができるため下図のように接続情報を把握することができます。
宛先と最寄り駅の関係は現在地がどこかによって変わってきますが、現在地がどの駅であってもすべての駅のリンクの情報を持っていればすべての宛先に対して適切な行き方を知ることができるようになります。そのためOSPFでは下図のように同期によってすべての駅がすべての駅のリンク情報を収集し、同じデータベースを持つことになります。
上の説明はネットワークは抽象化した2つのリンクで表現できるということでしたが、OSPFではこの抽象表現の組み合わせを大きく「ポイントツーポイントの表現」と「ブロードキャストの表現」の2つに分けています。抽象化したリンク表現とOSPFリンク表現の関係は下図のようになります。OSPFのポイントツーポイントのリンク表現は抽象化リンク表現をそのまま当てはめて考えることができ、ブロードキャストのリンク表現はポイントツーポイントから効率化を図った表現となります。図内の括弧書き番号はOSPFで使用するリンクIDで、下表に対応します。
OSPFのリンクタイプ
Link ID | 意味 | このサイトで用いる呼称 |
1 | Point-to-point Neighbor Router ID link | ポイントツーポイントリンク |
2 | Link to transit Interface address of network Designated Router | トランジットリンク |
3 | Link to stub IP network number network | スタブリンク |
4 | Virtual link Neighbor Router ID | バーチャルリンク |
ポイントツーポイント回線では下表のリンクを使用します。この表現は上で説明した抽象化の考え方をそのまま当てはめることができます。ただポイントツーポイントは一対一の接続という特徴からいくつかのケースに分かれます。
Link ID | 意味 | このサイトで用いる呼称 |
1 | Point-to-point Neighbor Router ID link | ポイントツーポイントリンク |
3 | Link to stub IP network number network | スタブリンク |
ケース1(ネイバーもIPサブネットもある場合)
ポイントツーポイント回線でお互いに同じIPサブネットを使用しネイバーを認識する場合はLink ID 1のポイントツーポイントリンク(ノードに対するリンク)とLink ID 3のスタブリンク(エッジに対するリンク)を使用します。ポイントツーポイントリンクはポイントツーポイントでネイバーを認識していることを表し、スタブリンクはIPサブネットを認識している(到達できる)ことを表します。ここでのスタブとは駅に対する街の関係と同じで通過することのない「目的地」や「宛先」のような意味合いです。また、スタブリンクはオプションによって下図のように表現を変更することができます。どちらも意味合いは同じですが、オプション1の場合はIPサブネットにはR1とR2の2台しか存在しない(街には2つの駅しか存在しない)ため直接ネイバーを指し、オプション2ではIPサブネットという範囲(2つの駅しか存在しない街)を指すことになります。どちらを選択するかは実装や設定次第ですが、一般的にはオプション2を使用します。
ケース2(ネイバーがいてIPサブネットがない場合)
ポイントツーポイント回線ではルータの機能によってunnumberedに設定することができるため、ネイバーは存在していてもIPサブネットが割り当たっていない場合があります。回線にIPサブネットが割り当たっていないということはスタブリンクも作成されないということになりますが、OSPFではインターフェースがunnumberedの場合ルータ内のいずれかのIPアドレスを使用する(借りる)ことになっています。この場合、IPサブネットは割り当たっていることになりますが、ルータ間のIPサブネットは異なるため下図のようにスタブリンクが作成されます。ケース1(上図の下)と結果を比較するとIPサブネットが共通しているかどうかだけの違いとなります。一般的な実装ではOSPFが使用するIPアドレスはルータのunnumberedの設定に従います。
unnumberedについて
unnumberedというはルータが持つ機能で、一部のポイントツーポイント回線(インターフェース)に対してIPアドレスを割り当てずにIPの機能を有効にする技術です。unnumberedに設定したインターフェースはIPアドレスを割り当てないため固有のアドレスは持ちませんがIPパケットを送受信するなどの機能は有することになります。unnumberedの考え方は「回線上に2者しか存在しないのであればIPサブネットは必要ない(宛先として使用しない限り)」というものです。2者間の接続はトンネルでつながっているのと同じで、トンネルに入ると必ず相手に到達するため、計算によって宛先に対する出力インターフェース(つまりルート情報)が決定するのであれば、IPサブネットを割り当ててIPアドレスを付与する必要はないという考え方をします。ポイントツーポイント回線にIPサブネットがあっても困ることはありませんが無駄になる可能性もあるということです。ただしunnumberedは概念的にはIPアドレスは不要ですがIPパケット(OSPFパケット含む)は通さなければならないため、インターフェースに何も設定しないというのではなく明示的にunnumberedであることを指定します。なおunnumberedはIPやOSPFによる仕様ではなくルータの実装における機能です。
ケース3(ネイバーが存在せずIPサブネットがある場合)
回線にネイバーが存在せずIPサブネットが割り当たっている場合にはLink ID 3のスタブリンクのみになります。回線がポイントツーポイント回線であっても相手が必ずOSPFを動作しているとは限らないため、相手が異なるプロトコルを動作しているような場合や、リモート接続しているルータや端末などの場合に適用されます。
このようにポイントツーポイントの抽象表現ではケースによって2つのリンク情報がそれぞれ存在する場合と存在しない場合があります。2つのリンク情報に依存関係はなく個別に扱います。
ブロードキャストでは下表のリンクを使用します。ブロードキャスト回線では多数のルータが存在できるため抽象化したリンク表現をそのまま適用すると無駄が生じてしまうことから「名簿」を作成する表現を使用しています。回線にネイバーが存在する場合(つまり回線上に2台以上のOSPFルータが存在する場合)にはトランジットリンクと、回線内の名簿であるNetwork-LSAを組み合わせて表現します。Network-LSAは回線内の代表となるルータ(DR)が作成します。
Link ID | 意味 | このサイトで用いる呼称 |
2 | Link to transit Interface address of network Designated Router | トランジットリンク |
3 | Link to stub IP network number network | スタブリンク |
ブロードキャスト回線における無駄とは下図のようなイメージです。ブロードキャスト回線は下図左のように回線内に複数のルータを接続することができます。この回線でポイントツーポイントと同じ抽象表現を用いると下図右のようになります。表現することに問題はありませんが、この表現の場合はネイバーが増えるに伴って非常に多くのリンク情報が必要となります。そこでOSPFのブロードキャストの抽象表現では以下のケース1で説明するように名簿を作ってみんなに共有することで作成するリンク情報を最小限に抑えるようにしています。
ケース1(ネイバーがいる場合)
回線に2台以上のOSPFルータが存在する場合にはLink ID 2のトランジットリンクとNetwork-LSAを使用します。このケースでは上記のリンク数増加の問題を回避するためにネットワーク内にNetwork-LSAというネイバーの名簿(ノードのリスト)が作成されます。各ルータはトランジットリンクを使用してこの名簿を参照することで回線内のすべてのネイバーを知ることになります。Network-LSA内にはネイバーの一覧以外にサブネットマスクも含まれているため、自分のIPアドレスと組み合わせることでIPサブネットに対するリンクも得ることになります。
下図は各ルータがNetwork-LSAを参照している様子を表しています。赤矢印がルータからNetwork-LSAに対するトランジットリンクで、Network-LSAから各ルータに対してのびている灰色の矢印がネイバーの一覧です。IPサブネットに対する青い矢印はイメージでリンク情報としては存在せず、ルート計算時にトランジットリンクとNetwork-LSAのもつサブネットマスクを元に現れます。
ブロードキャスト回線におけるトランジットリンクの役割はポイントツーポイントリンクと同じで、指し示す対象がルータからNetwork-LSAに変わっただけです。ただしOSPFのリンクタイプの番号は区別されてLink ID 2が使用されます
ケース2(ネイバーがいない場合)
回線にネイバーが存在しない場合にはLink ID 3のスタブリンクのみになります。回線上に複数の機器が接続していてもOSPFルータが1台しかいないような場合に適用します。ネイバーがいないという点でポイントツーポイント回線と同じ考え方となります。
ブロードキャスト回線ではポイントツーポイント回線のようにネイバーの存在とIPサブネットの存在が切り離せないことに注意が必要です。ブロードキャスト回線では複数のルータが存在できますが、ネイバーを識別する(Ethernetの場合だとネクストホップへ送信するためにMACアドレスを得る)ために必ずIPサブネットが存在しなければなりません。ただしネイバーが必ず存在するわけではないため、ネイバーの有無によって使用するリンク情報が排他的に変化するということになります。
ポイントツーマルチポイント回線では複数のネイバーが存在することから、各ネイバーに対してのリンク表現はポイントツーポイント回線に似た表現を使用し、全体としてはポイントツーポイント回線が集合したようなネットワークとして扱います。ただしポイントツーマルチポイント回線は複数のルータが存在することから原則的に共通のIPサブネットが付与されていなければなりません(回線の存在でもってネイバーを特定できない)。
Link ID | 意味 | このサイトで用いる呼称 |
1 | Point-to-point Neighbor Router ID link | ポイントツーポイントリンク |
3 | Link to stub IP network number network | スタブリンク |
ケース1(ネイバーがいる場合)
ポイントツーマルチポイント回線でネイバーが存在している場合は下図のような表現となります。各リンクはポイントツーポイント回線と同じもの(上表)を使用し同じ考え方を適用します。ただしスタブリンクでは対象がルータ自身のIPアドレス(/32)となります。ポイントツーマルチポイント回線では原則として共通のIPサブネットが必要ですが、どのようなブロックサイズのIPサブネットを設定していてもIPアドレス(/32)となるため、ネイバーと自分のIPサブネットが同じかどうかに違いはありません。つまりルータ毎に別のIPサブネットを使用することも可能です。ただし、各ルータで異なるIPサブネットを使用する場合は、ルータとして回線(ローカルネットワーク)のローカルネットワークアドレスが解決できることと、その情報がルート情報として使用できる実装になっていなければなりません。
ケース2(ネイバーがいない場合)
ネイバーが存在していない場合はスタブリンクだけとなります。ケース1で説明しているようにポイントツーマルチポイントではスタブリンクの対象はルータ自身のIPアドレスであるためポイントツーポイントやブロードキャストのような複数のIPアドレスを含むIPサブネットを指定することにはなりません。
バーチャルリンクの場合はルータが2台しか存在しないため、基本的にポイントツーポイント回線と同じ考え方ができます。ただしポイントツーポイント回線とは異なる点が2つあります。一つ目はIPサブネットが共通ではないこと、二つ目は必ずネイバーが存在することです。一つ目のIPサブネットが共通ではないというのは必ずネイバーと同じIPサブネットを使用するわけではないうことですが、それによってバーチャルリンクではスタブリンクが必要ありません。二つ目の必ずネイバーが存在するというのはこの回線自体が相手の存在によってはじめて成立する回線であるため、相手が存在しない場合には回線自体が消えることを意味してます。そのためバーチャルリンクが構築されている場合には必ずネイバーに対するリンクだけが存在します。このバーチャルリンクの抽象表現はポイントツーポイントリンクの意味を持っていますが、OSPFのリンクタイプの番号は区別されてLink ID 4が使用されます。
Link ID | 意味 | このサイトで用いる呼称 |
4 | Virtual link Neighbor Router ID | バーチャルリンク |
下図のようなNBMA回線の場合はその動作がポイントツーポイントの集合もしくはブロードキャスト回線と同じとして表現することができるため、2つのモードのいずれかを使用します。
NBMAモードはNBMA回線上でブロードキャスト回線の動作をそのまま実行するモードです。NBMA回線はブロードキャスト回線と同じくマルチアクセスが可能であるため、NBMA回線をブロードキャスト回線と同じ扱いとして動作させます。抽象表現もブロードキャスト回線と同様に下表の2つを使用し、DRの選出とNetwork-LSAも作成します。ただし、NBMA回線はブロードキャスト回線のようにルータ同士が直接到達できるとは限らないため、このモードを使用する前提として下位レイヤーですべてのルータに対する到達性(1ホップでの到達性)を確保しておかなければなりません。
Link ID | 意味 | このサイトで用いる呼称 |
2 | Link to transit Interface address of network Designated Router | トランジットリンク |
3 | Link to stub IP network number network | スタブリンク |
ケース1(ネイバーがいる場合)
ブロードキャスト回線の表現がそのまま適用されます。下図の青矢印はイメージであり、リンク情報ではありません。
ケース2(ネイバーがいない場合)
ブロードキャスト回線の表現がそのまま適用されます。
ポイントツーマルチポイントモードはNBMA回線上でポイントツーマルチポイント回線の動作をそのまま実行するモードです。NBMA回線をポイントツーマルチポイント回線と同じ扱いとして動作させます。抽象表現もポイントツーマルチポイント回線と同様に下表の2つを使用します。このモードの場合はNBMAモードのようにすべてのネイバーに対する到達性を確保する必要がありません。
Link ID | 意味 | このサイトで用いる呼称 |
1 | Point-to-point Neighbor Router ID link | ポイントツーポイントリンク |
3 | Link to stub IP network number network | スタブリンク |
ケース1(ネイバーがいる場合)
ポイントツーマルチポイントの表現がそのまま適用されます。
ケース2(ネイバーがいない場合)
ポイントツーマルチポイントの表現がそのまま適用されます。
OSPF内で取り扱う情報のについて説明します。OSPFで扱うすべての情報は4種類のいずれかのデータ構造に分類されています。それぞれがOSPFの管理対象に対して括られてまとめられてた情報の集合体です。4つのデータ構造は以下の通りです。
データ構造 | 意味 |
プロトコルデータ構造 (Protocol Data Structures) |
OSPFを構成するために唯一必要とする情報 |
エリアデータ構造 (The Area Data Structure) |
エリアを構成するために各エリア毎に必要な情報 |
インターフェースデータ構造 (The Interface Data Structure) |
OSPFインターフェースを構成するために各インターフェース毎に必要な情報 |
ネイバーデータ構造 (The Neighbor Data Structure) |
ネイバーを認識するために各ネイバー毎に必要な情報 |
これらのデータ構造は下図のように階層的な関係で考えることができます。
また各データ構造とOSPFルータの機能との関係は下図のようになります。各データ構造の持つ情報は以下で説明しています。なお各データ構造に含まれる情報は管理オブジェクトではなく、OSPFの動作に必要な概念的な情報であることに注意してください。管理オブジェクトはRFC1850で定義されています。
OSPFルータが1つだけ持っているグローバル情報です。下表のVirtual links configuredはVirtual link parametersとして分類され、他方のエンドポイントのルータIDと、仮想リンクが経由する非バックボーンのエリアです。” * “がついているものは設定可能なパラメータです。
パラメータ、要素 | 意味 |
Router ID* | ASでルータを一意に識別する32ビットの番号。手動で設定しない場合はインターフェースに設定されたIPアドレスの中で一番小さいアドレスをルータIDとする |
Area structures | OSPFプロトコルのアルゴリズムが個別に適用されるデータ構造 |
Backbone (area) structure | エリア間のルーティング情報の発信を行うエリアデータ構造 |
Virtual links configured* | トランジットエリアを通じて接続されるバックボーンエリアの接続情報 |
List of external routes | AS外に到達することのできるルート情報 |
List of AS-external-LSAs | AS外のルート情報のLSA(LS Type 5) |
The routing table | LSDBとSPFから生成するルート情報エントリ |
RFC1583Compatibility* | RFC1583(OSPFv2-1994)との互換状態を表す。有効無効を全ルータで一致させる |
OSPFルータがエリア毎に持つエリアを構成する情報です。” * “がついているものは設定可能なパラメータです。
パラメータ、要素 | 意味 |
Area ID* | エリアを識別する32ビットの番号 |
List of area address ranges* | エリア境界でルート情報の集約に使用可能なアドレス範囲情報。 IP addressとmaskのセットと、Statusからなる。StatusにはAdvertiseもしくはDoNotAdvertiseが入りエリア内で使うかどうかを示す |
Associated router interfaces | エリアに接続するインターフェース情報 |
List of router-LSAs | エリア内の各ルータによって生成されるLSA(LS Type 1) |
List of network-LSAs | エリア内のブロードキャスト回線などで作成されるLSA(LS Type 2) |
List of summary-LSAs | ABRで作成されるLSA(LS Type 3, 4) |
Shortest-path tree | LSAを元に作成したルート情報を求めるためのツリー情報 |
TransitCapability | トランジットエリアとしての機能の可否を示す情報 |
ExternalRoutingCapability* | LS Type 4, 5のLSAを扱うかどうかの情報(スタブエリアとなるかどうか) |
StubDefaultCost* | ABRがスタブエリアに対して適用する既定のコスト |
OSPFルータがインターフェース毎に持つOSPFインターフェースを構成する情報です。最後の2項目はNBMA回線で使用されるNBMA network parametersです。” * “がついているものは設定可能なパラメータです。
パラメータ、要素 | 意味 |
Type | インターフェースの種類 point-to-point、broadcast、NBMA、Point-to-MultiPoint、virtual linkのいずれか |
State | インターフェースの機能レベル 隣接になることができるかを表す |
IP interface address* | インターフェースに付与されるIPアドレス |
IP interface mask* | インターフェースに付与されるサブネットマスク |
Area ID* | インターフェースの属するエリアID |
HelloInterval* | インターフェースから送信するHelloパケットの間隔 |
RouterDeadInterval* | Helloパケットを受け取らなくなりネイバーがダウンしたと判断する時間。HelloIntervalの整数倍 |
InfTransDelay* | LSAの送信(伝搬遅延を含む)に係る推定時間。0より大きな数字 LSAを送信する際MaxAgeに加算 |
Router Priority* | 回線内でルータの優先度を表す数値。0はDR選出に参加しない |
Hello Timer | Helloパケットを送信すためのタイマー。HelloInterval間隔 |
Wait Timer | インターフェースをWaitingに待機させるタイマー。RouterDeadIntervalが経過するとDR・BDRの選定を開始 |
List of neighboring routers | インターフェースから到達できるネイバーの一覧 |
Designated Router | 回線内で選択されたDR |
Backup Designated Router | 回線内で選択されたBDR |
Interface output cost(s)* | インターフェースでパケットを送信するコスト。0より大きな数字 |
RxmtInterval* | このインターフェースの隣接に対するDatabaseDescription、Request、Updateの再送信の間隔 |
AuType* | このインターフェースのネイバー、隣接に対する認証方式 |
Authentication key* | 認証方式による認証情報 |
List of all other attached routers* | NBMAに接続されているネイバーのリスト |
PollInterval* | ネイバーがアクティブでなくなった場合にHelloパケットを送信する間隔(サンプル値:2分) |
OSPFルータがネイバー毎に持つ各ネイバーを管理するための情報です。OSPFプロトコル内で自動で作成されるため設定できる項目はありません。
パラメータ、要素 | 意味 |
State | ネイバーに対する状態 |
Inactivity Timer | ネイバーを生存しているとして扱うタイマー |
Master/Slave | ネイバーに対する自分の役割 |
DD Sequence Number | 現在のDDシーケンス番号 |
Last received Database Description packet | ネイバーから最後に受信したDBDパケット |
Neighbor ID | ネイバーから示されたRouterID |
Neighbor Priority | ネイバーから示されたRouter Priority |
Neighbor IP address | ネイバーから示されたIP interface address |
Neighbor Options | ネイバーから示された対応するOption |
Neighbor’s Designated Router | ネイバーから示されたDR |
Neighbor’s Backup Designated Router | ネイバーから示されたBDR |
Link state retransmission list | ネイバーに送信しなければならないLSAを示した一覧。このリストを元にLSDBからUpdateパケットを送信 |
Database summary list | ネイバーに送信するLSA一覧。このリストそのものをデータとしてDBDパケットを送信。 AS-external-LSAを含んだArea LSDBのLSAヘッダのリスト。スタブエリアとバーチャルリンクの場合はAS-external-LSAは省略 |
Link state request list | ネイバーから送ってもらいたいLSAの一覧。このリストを元に相手にリクエストパケットを送信 |
Cryptographic sequence number | 暗号認証を行う場合に使用するシーケンス番号 |